地域ごとの気候データや園芸愛好家の定点観測によると、コブシの開花時期は3月下旬から4月中旬にかけてピークを迎えます。早春の並木道を観察すると、まず3月上旬にハクモクレンが重厚な白い花を咲かせ、それが散り始める頃にバトンを受け継ぐようにコブシが軽やかに咲き乱れます。
現場で多くの人が気付くのが、「散り方」の質感の違いです。ハクモクレンの花びらは厚みがあるため、落花すると地面で酸化して茶褐色に変色しやすく、雨が降ると滑りやすいペースト状になりがちです。これに対してコブシの花弁は薄くしなやかなため、風に吹かれるとひらひらと舞い散り、地面を清潔な白で覆い尽くします。この散り際の潔さも、日本人の感性に古くから愛されてきた理由の一つです。
また、こぶしの花の香りには極めてユニークな特徴があります。花自体からは柑橘系を思わせる爽やかでほのかに甘いフルーティーな芳香が漂います。さらに、樹皮や若い枝を軽く擦ったり折ったりすると、精油成分(テルペノイド類やシネオール)に由来するスーッとした心地よいスパイシーな香りが立ち上ります。
北方民族文化の研究資料によると、北海道のアイヌ文化ではコブシを「オマウクシニ(良い匂いのある木)」や「プシニ」と呼び、樹皮や枝を煎じて風邪予防の薬用茶として愛飲していた歴史が記録されています。視覚だけでなく、嗅覚を通じても人々の生活に深く根付いていた証拠です。