インターネット上の掲示板やSNSでは、失笑恐怖症に関して医学的根拠を欠いた俗説が数多く流布しています。これらの誤った言説を鵜呑みにすることが、かえって当事者を追い詰める結果を招いています。
最大の誤解は、「サイコパス(反社会性パーソナリティ)だから他人の不幸を笑うのだ」という言説です。これは医学的に完全な誤りです。他者の痛みに共感できない反社会性パーソナリティの人間は、そもそも「笑ってはいけない場で笑う自分」に対して深刻な苦痛や自己嫌悪、罪悪感を抱きません。失笑恐怖症に苦しむ人々は、むしろ他人の感情や場の空気を敏感に察知しすぎる「過敏で誠実な性格」の持ち主であることが各種の臨床データで示されています。他者に迷惑をかけたくないという強い道徳心があるからこそ、その禁止事項へのプレッシャーが自爆の引き金となっているのです。
また、「無理にでも我慢する訓練を重ねれば治る」という根性論も極めて危険な盲点です。前述のアイロニック・プロセス理論が示す通り、意思の力だけで笑いを力づくで封じ込めようとする行為は、火に油を注ぐようなものです。必要なのは「抑え込む努力」ではなく、「なぜ笑いが生じているのかを客観的に観察し、受け流す技術」です。