男性ボーカリストが『白日』を原曲キーで歌おうとした際、ほぼ確実に直面するのが「喉の過度な緊張(喉締め)」と「スタミナ切れ」です。この現象には、発声解剖学的な明確な理由が存在します。
第一の壁は、成人男性の多くが直面する第2換声点(mid2E〜mid2G付近のパッサッジョ)を遥かに超えた地点にメロディが配置されている点です。サビでは地声混じりの力強い響きと純粋な裏声が目まぐるしく交錯します。声帯を伸展させる「輪状甲状筋」と声帯を閉じる「甲状披裂筋」のバランスが崩れると、声は即座にひっくり返るか、叫び声のような苦しい発声に陥ります。
第二の壁は、井口理というボーカリスト特有のバックグラウンドです。東京藝術大学声楽科で培われたクラシックの声楽的アプローチ(ベルカント唱法を基盤とした軟口蓋の引き上げ、共鳴腔の確保、腹圧による無駄のない呼気供給)があるからこそ、あのhiF#に及ぶハイトーンが囁くような脱力感のまま成立しています。基礎的な筋力と脱力のコントロールを持たない一般のアマチュアがその表層だけを真似ようとすると、息が漏れすぎてピッチが下がるか、首周りのアウターマッスルで締め上げて声帯を痛める結果となります。