岡田有希子さんの死がもたらした最大の社会的悲劇は、「ユッコシンドローム」と呼ばれた大規模な後追い自殺の連鎖でした。彼女の死後、わずか2カ月の間に青少年を中心に全国で30名以上、関連が疑われるものを含めると数百名規模の若者が自ら命を絶つ異常事態へと発展したのです。
厚生省(当時)の人口動態統計によると、1986年4月の青少年の自殺者数は前年同月比で急増しました。連日テレビの情報番組が転落現場の映像を繰り返し流し、事務所前で泣き叫ぶファンたちの姿をセンセーショナルに報じ続けたことが、精神的に不安定だった思春期の若者たちを心理学でいう「ウェルテル効果(著名人の自死報道に影響されて連鎖的に発生する自死)」へと巻き込みました。
この深刻な事態を受け、第104回通常国会の衆議院文教委員会において、過熱するメディア報道の責任と青少年のメンタルヘルス対策が激しい議論の対象となりました。この痛苦の反省が、後年の日本におけるメディア倫理綱領の改訂や、世界保健機関(WHO)による「自殺報道ガイドライン」の受容・策定に向けた決定的な礎石となったことは紛れもない歴史的事実です。