箱根の交通網がこれほどまでに重層的で魅力的なものとなった背景には、歴史的な交通開発のドラマがある。小田急電鉄株式会社の創業者である利光鶴松が抱いた「東京から箱根の山懐へ直結する高速鉄道を拓く」という強い執念が、難所を切り拓くインフラ整備の礎となった。かつて箱根山をめぐって繰り広げられた私鉄各社の競争と協調が、世界でも類を見ない登山鉄道やロープウェイの濃密なネットワークを結実させたのである。
今日、そのインフラは新たな文化現象と共鳴している。名作アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の舞台「第3新東京市」のモデルとなった箱根では、「箱根補完計画」と称した大規模な地域連携やスタンプラリーが幾度となく展開され、国内外のファンを惹きつけてやまない。作中に登場する風景を求めてロープウェイやバスを乗り継ぐ聖地巡礼の旅において、周遊切符は単なる乗車券を超え、物語の世界観へ没入するためのパスポートとして機能している。