表面的な報道だけを見ていると、「億万長者たちによる欲深い取り分争い」と映るかもしれません。しかし、選手会とオーナー陣営の間に横たわる溝は、野球ビジネスの根底を揺るがす構造的な歪みに起因しています。
第一の火種は、「サラリーキャップ(年俸総額の上限規制)」を巡る長年のイデオロギー闘争です。NFLやNBA、NHLといった米国の他の主要プロスポーツリーグには厳格なサラリーキャップ制度が存在しますが、MLB選手会は結党以来、選手の市場価値を人為的に制限するキャップ制を一貫して拒否し続けています。代わりに導入されているのが「贅沢税(競争バランス税)」ですが、大都市圏の資金力豊富なメガフランチャイズ(ドジャース、ヤンキース、メッツなど)は多額の課徴金を支払ってでもスター選手を買い集めることが可能です。結果としてスモールマーケット球団との資金力格差は開く一方となり、中小規模球団のオーナー陣は「厳格な年俸上限を設けなければ経営が成り立たない」と声を荒らげています。
第二の深刻な要因が、近年アメリカのスポーツ界を襲っている地域スポーツ専門局(RSN: Regional Sports Network)の経営破綻ドミノです。長年、中堅以下のMLB球団にとって確実なドル箱だったケーブルテレビの放映権ビジネスは、ネットフリックスやYouTubeをはじめとする定額動画配信の台頭による「コードカッティング(解約運動)」で崩壊しました。大手RSNを運営していたダイヤモンド・スポーツ・グループ(バリー・スポーツ)の破産申請に象徴されるように、放映権収入が激減した球団は大幅な総年俸削減を余儀なくされています。「入る金が激減しているのだから支出(年俸)を削らざるを得ない」と主張する球団側に対し、選手会側は「球団全体の資産価値や全国放映権、放映プラットフォームからの収益は依然として巨大であり、単なるコストカットの口実だ」と反発し、両者の主張は真っ向から衝突しています。