インターネット上の掲示板やSNSでは、「さんまは丸ごと凍らせるのが一番手軽」という声がある一方で、「内臓を抜かずに冷凍したら苦味が生臭さに変わり、身までドロドロになった」という失敗談が後を絶ちません。この意見の対立には、水産食品科学の明確な裏付けが存在します。
最大の要因は、さんまの消化器官に含まれる自己消化酵素の働きです。さんまは胃を持たず、食べた餌を腸で急速に消化する構造を持っています。そのため、消化管内には強力なタンパク質分解酵素が存在しており、個体が死を迎えた瞬間から自身の内臓組織や周辺の腹肉を分解し始めます。マイナス18度前後の一般的な家庭用冷凍庫では、緩慢冷却によって凍結までに数時間を要するため、冷え切るまでの間にこの自己消化が進行してしまうのです。
さらに見逃せないのが、さんま特有の「内臓の脂」の酸化スピードです。DHAやEPAといった高度不飽和脂肪酸は空気に触れると急速に過酸化脂質へと変化します。水産試験場などの研究データでも、内臓を残した状態で長期間冷凍保管された青魚は、遊離脂肪酸の増加と脂質過酸化が顕著に進み、解凍時に腹部から身全体へ不快な臭気成分(ヘキサナール等)が移行することが確認されています。
結論として、さんま内臓そのまま冷凍が許容されるのは、「購入当日の極めて鮮度が高い個体を2週間以内に食べ切る場合」に限られます。それ以上の期間保存する場合や、すでに水揚げから数日経過している店頭のパック品については、内臓を取り除くひと手間を惜しまないことが、1ヶ月後も獲れたてのような香ばしさを味わうための分岐点となります。