刑法200条の違憲判決を理解する上で避けて通れないのが、当時の普通殺人罪(刑法199条)と尊属殺人罪(旧刑法200条)における「法定刑の格差と減刑の限界」という法構造の罠です。
当時の普通殺人罪の法定刑は「死刑、無期懲役、または3年以上の懲役」と規定されていました。裁判において被告人に深い同情すべき事情(情状)が認められる場合、裁判官は刑法66条および68条の「情状酌量減軽」を適用できます。これにより、懲役刑の下限である3年は半分の「1年6月」まで減軽され、刑法25条が定める「3年以下の懲役」という条件を満たすため、執行猶予を付して刑務所への収監を免除する判決を下すことが可能でした。
しかし、旧刑法200条の尊属殺人は法定刑が「死刑または無期懲役」のみでした。どれほど被告人に過酷で同情すべき境遇があったとしても、以下のような計算上の限界が存在したのです。
- 1回目の減軽(情状酌量):無期懲役を減軽しても「7年以上の懲役」にしかならない。
- 自首などによる2回目の減軽(法律上の減軽):最大まで減軽を重ねても「3年6月の懲役」が法的な下限にとどまる。
- 執行猶予の不可:刑法25条の執行猶予要件である「3年以下」にどうしても届かないため、裁判官がどれほど「この被告人を刑務所に入れるべきではない」と判断しても、必ず実刑判決を下さざるを得ない構造になっていました。
この逃げ場のない制度的欠陥が、次項で解説する極限の悲劇と法廷で正面から激突することになります。