佐渡ヶ嶽部屋を語る上で欠かせないのが、土俵の外で部屋を支え続けるおかみさん・真千子(まちこ)さんの存在です。真千子さんは初代琴櫻の実の長女。すなわち、佐渡ヶ嶽親方にとっては師匠の娘であり、愛する妻でもあります。部屋を継承した夫を陰から支え、数十人に及ぶ若い弟子たちの健康管理や精神的ケアに寝食を忘れて奔走してきました。
この名門相撲一家に生まれた長男が、現大関の琴櫻将且(ことざくら・まさかつ/本名:鎌谷将且)です。幼少期から祖父である初代琴櫻の膝の上で相撲の薫陶を受け、名門・埼玉栄高校から佐渡ヶ嶽部屋へと入門しました。実の父親が師匠であり、実の祖父が伝説の大横綱という境遇は、外から見れば華やかなエリートコースに映るかもしれません。しかし稽古場においては、血縁の甘えを一切排除した凄絶な指導が行われていました。
かつて師匠は取材陣に対し、「息子だと思う瞬間は土俵の外でも一切作らない。他の弟子と同じ飯を食い、同じ雑務をこなさなければ、人の上に立つ関取にはなれない」と語っています。その過酷な試練を乗り越え、2024年初場所後に大関昇進を果たすと、翌5月場所から長年名乗った「琴ノ若」を改め、祖父の名跡である「琴櫻」を襲名しました。これこそが、大関琴櫻改名襲名理由の根幹にあります。先代横綱の血を引く者としての誇りと、看板大関として相撲界を牽引する揺るぎない覚悟が、祖父の化粧廻しと名跡の復活へと結実したのです。