TICの実践において最も見落とされがちな要素が、支援を行うスタッフ自身のTIC 心理的安全性の確保である。トラウマを抱えた被支援者と向き合う支援者は、無意識のうちに相手の恐怖や絶望を追体験し、二次受傷(セカンダリー・トラウマ)や共感疲労に晒される。スタッフ自身が過重労働や職場のパワハラで脅かされている状態で、利用者にだけ安全を提供することなど構造的に不可能だ。
【プロの結論】導入に向いている組織・慎重になるべき組織の客観的判断基準
組織にTICを導入するにあたり、失敗しないための明確な基準を以下に提示する。
- 導入が推奨される組織の条件:
- 管理職が「上意下達の統制モデル」を手放し、現場の弱音や失敗を受け止める対等な対話姿勢を持っている。
- スタッフ同士のデブリーフィング(事例の振り返りや感情の吐き出し)の時間が公式な勤務時間内に確保されている。
- 厚生労働省 トラウマインフォームドケアに関する手引書や各種ガイドラインを活用し、単発研修ではなく年単位の組織変革として予算と時間を割いている。
- 導入に慎重になるべき(環境改善が先決な)組織の条件:
- 慢性的な人手不足で有給休暇の取得も難しく、個人の自己犠牲や残業で現場が維持されている。
- 「TIC=もっと利用者に優しくする運動」と矮小化され、支援員にさらなる我慢や自己犠牲を強いる風土がある。
- 組織内の心理的バウンダリー(境界線)が曖昧で、特定の職員が利用者の要求に際限なく巻き込まれる共依存傾向が見られる。
行政面におけるトラウマインフォームドケア 最新動向を検証すると、厚生労働省は精神保健福祉分野のみならず、困難な問題を抱える女性への支援事業や社会的養護、自殺対策の基本方針においてTICの概念を明確に組み込み始めている。もはやTICは一部の熱心な専門家の先進事例ではなく、公的な対人サービスの標準インフラとして実装される段階へ突入したと評価できる。