近年、最も懸念されているのが、個人輸入代行サイトなどを利用して海外製の避妊ピルや卵胞ホルモン製剤を入手し、医師の診断や血液検査なしに自己投与する「DIYホルモン療法」です。これは極めて危険な行為であり、命に関わる重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
最大の脅威は深部静脈血栓症(DVT)および肺塞栓症です。高用量のエストロゲンは血液凝固系を亢進させ、血管内に血の塊(血栓)を作らせやすくします。下肢の血管で生じた血栓が血流に乗って肺の動脈を塞ぐと、激しい呼吸困難や胸痛を引き起こし、最悪の場合は突然死に至ります。特に喫煙者や肥満傾向のある人の血栓リスクは跳ね上がります。
さらに、薬剤を過剰摂取することによる重篤な肝機能障害、下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の発生、高血圧、脂質異常症、胆石症のリスクも報告されています。医療機関では、定期的な血液検査(ALT、AST、総ビリルビン、エストラジオール濃度、プロラクチン、凝固系マーカー等)を実施しながら慎重に適正投与量をコントロールしますが、自己投与ではこれらの異常を察知できず、取り返しのつかない事態に陥る危険があります。
【プロの結論】安全なアプローチと推奨・慎重になるべき人の判断基準
女性ホルモン療法は、適切な適応と医療的管理のもとで行われて初めてその恩恵を享受できる医療行為です。自身の心身を守るため、以下の判断基準を厳格に照らし合わせることが不可欠です。
【医療機関での治療を検討すべき人】
精神科医による適切な診断を受け、自身の身体的性別とジェンダーアイデンティティの不一致に深刻な苦痛(性別違和)を抱えている当事者。将来的な不妊や副作用のリスク、社会生活の変化について十分なインフォームドコンセントを受け、継続的な通院と血液検査を受けられる環境が整っている人。
【治療を強く見合わせるべき・慎重になるべき人】
「肌を綺麗にしたい」「若返りたい」「一時的に女装のクオリティを上げたい」といった美容・サブカルチャー的動機のみでホルモンを求めている人。また、将来的に自分の遺伝子を残した子供を持つことを希望している人や、現在重度の肝疾患・血栓症の既往・心血管系疾患を抱えている人は、生命に関わるため絶対に安易な投与を行ってはなりません。