医学界において「学閥」とは、単なる学友の集まりではありません。それは「どの大学の医局が、どの主要総合病院の院長・部長ポストを握っているか」という人事権の勢力圏そのものを意味します。
1. 旧帝大閥(東大・京大・阪大・名大・東北大・九大・北大)の全国采配
旧帝大医学部の影響力は自県にとどまりません。例えば東京大学医学部は、関東圏の主要赤十字病院、都立病院、三井記念病院や虎の門病院といった名門臨床拠点の要職を伝統的に押さえています。京都大学は近畿一円のみならず、北陸や四国、中国地方の一部にまで強固な関連病院網を保持しており、新設医大の教授選にも多大な影響を及ぼしてきました。
「地方新設医大の特定診療科において、教授ポストが数代にわたって特定の旧帝大出身者で占められる現象」は、医療現場における公然の事実です。学会の役員人事や大型研究費(科研費・AMED)の配分においても、旧帝大閥の存在感は圧倒的です。
2. 旧六医科大学(千葉・金沢・新潟・岡山・熊本・長崎)の絶対的ブロック支配
明治期からの歴史を誇る「旧六医科大学」は、地方ブロックにおいて旧帝大に匹敵、あるいはそれを凌駕する支配力を誇ります。
- 千葉大学:千葉県内はもとより、茨城南部や東京都東部の主要医療機関を網羅。
- 金沢大学:北陸3県(石川・富山・福井)の地域医療における歴史的リーダーシップ。
- 岡山大学:中国・四国地方の広範なエリアにわたる関連病院ネットワークを維持。
- 長崎大学・熊本大学:九州各県の公立中核病院への確固たる医師派遣パイプ。
3. 私立御三家(慶應・慈恵・日医)と新興勢力の勢力図
私立大学において唯一無二の学閥権力を持つのが慶應義塾大学医学部です。三四会と呼ばれる同窓会組織は結束力が強く、慶應病院のみならず国立病院機構東京医療センター、済生会中央病院、北里研究所病院など、首都圏の一等地にある有力病院のポストを多数保持しています。
東京慈恵会医科大学は「成医会」、日本医科大学は「同窓会」の組織力を武器に、都内および近隣県の地域医療機関と深いパイプを築いています。一方で、近年急速に難易度を上げた順天堂大学や国際医療福祉大学は、自前の附属病院群を拡大することで、旧来の学閥に依存しない「自己完結型メガホスピタル体制」を構築し、学閥の地図を塗り替えつつあります。