まず押さえておきたいのが、言葉としての基本構造だ。「桃現郷」の読み方は「とうげんきょう」(作品やコンテキストによっては「とうげんごう」と呼称されるケースもある)であり、中国の詩人・陶潜(陶淵明)が描いた『桃花源記』に由来する「桃源郷」をもじった造語である。
両者の決定的な相違点は、漢字一文字の「源」と「現」にある。従来の桃源郷が「俗世から隔絶された、二度と辿り着けない隠された仙境」という不可侵の幻想を象徴していたのに対し、桃現郷は「現実世界に引き寄せ、現前させた理想郷」という意味合いを持つ。逃避先としてのパラダイスではなく、私たちが息づく現代空間そのものを拡張・再構築して創り出す新しい居場所、という能動的な思想がそこに込められている。