大雪山SOS事件が長年にわたり怪事件として語り継がれた最大の要因は、遺体発見直後に発表された「人骨の鑑定結果」にありました。発見された頭蓋骨や骨盤などの骨片を旭川医科大学の法医学教室で鑑定したところ、「20代から40代の女性の骨である可能性が高い」という初期鑑定が下されたのです。
現場に残されていた荷物はすべて1984年に失踪した愛知県の男性会社員のものであり、女性が同行していた記録や親族への連絡は一切存在しませんでした。「男性の荷物の中に、なぜ見知らぬ女性の白骨遺体があるのか」「カセットテープの男性の声は誰なのか」「男性自身はどこへ消えたのか」という疑問がマスコミを席巻し、日本中がこのミステリーに釘付けとなりました。
しかし、この狂騒劇の真相は、当時の法医学鑑定における骨形態計測技術の限界と誤認でした。1980年代後半の法医学では、現在のような高精度なDNA型鑑定技術が確立されておらず、損傷の激しい骨片から性別を判定する際は骨盤の開き具合や頭蓋骨の厚みといった形態的特徴に頼らざるを得ませんでした。男性の骨格が華奢であったことや、風化による骨の欠損が判定を誤らせる原因となりました。
その後の徹底的な再鑑定および残された歯型や身体的特徴の照合、その後の科学的検証により、現場で発見されたすべての人骨は遭難した男性会社員本人のものであることが公式に確認されています。つまり、「女性の遭難者」は最初から存在せず、鑑定の初期エラーが独り歩きした結果生まれた幻影に過ぎませんでした。
また、カセットテープにアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ』や『超時空要塞マクロス』の主題歌が録音されていた点についても、男性が生前これらのアニメを好んで録音していた私物のテープであり、その余白部分に極限状態で救助要請の声を吹き込んだ事実が判明しています。