末娘イブの華麗なサクセスストーリーとは対照的に、壮絶な葛藤の歴史を歩んできたのが長女のリサ・ブレナン・ジョブズです。彼女の生い立ちは、スティーブ・ジョブズの生涯における最大の暗部として長年語り継がれてきました。
ジョブズはリサが生まれた当時、自らの子であることを頑なに認めず、DNA鑑定で親子関係の確率94.41%という決定的な結果が出た後も法廷で争い続けました。当時、月額数百ドル程度の養育費支払いに抵抗していたジョブズですが、皮肉にも1983年にAppleが社運を賭けて発表した革新的パーソナルコンピュータには「Apple Lisa」という名が冠されていました。
長年、ジョブズはこのパソコンの名称について「Local Integrated Software Architecture(ローカル統合ソフトウェア・アーキテクチャ)の頭文字だ」と強弁し、娘への命名由来を否定し続けました。しかし晩年、ロックバンドU2のボノが別荘で「Lisaは娘の名前から取ったのか?」と尋ねた際、ジョブズは初めて「そうだ」と認めたという逸話が残されています。
名門ハーバード大学を卒業後、文筆家となったリサは、2018年に発表した自伝『スモール・フライ(Small Fry)』で父とのいびつな関係を赤裸々に告白しました。手記には、病床で彼女に放たれた「お前はトイレのような匂いがする」という冷淡な言葉や、気まぐれな優しさと拒絶の間で引き裂かれた幼少期のトラウマが克明に描かれています。「スモール・フライ(小魚、取るに足らない存在)」という書名は、かつてジョブズが彼女を呼んだ愛称でした。残酷なまでの父親の人間性をありのままに描くことで、彼女はようやく「ジョブズの娘」という重力から自らを解放したのです。