筆者が行政相談窓口や公衆衛生の現場関係者へ取材を重ねると、市民が直面する切実な混乱と、窓口対応に追われる職員側の苦悩が生々しく伝わってくる。
「生後4カ月の健診案内が届いた際、案内の差出人をよく確認せず、実家の近くにあった立派な『○○保健所』にベビーカーを押して行ってしまいました。受付で『健診は市役所別館の保健センターですよ』と告げられ、炎天下でタクシーを呼ぶ羽目になった」(都内在住・30代女性)
ネット上のQ&AサイトやSNS上でも、「飲食店を開業する食品営業許可は市役所で取れますか?」「夫のアルコール依存とうつ病は保健所と保健センターのどちらに相談すべきか」といった相談が年間を通じて絶えない。市民にとって「保健」という文字が冠された施設はすべて同じ公的窓口に見えてしまうのだ。
現場で働く保健師たちの証言からも、人員配置の歪みと構造的疲弊が透けて見える。厚生労働省の統計調査によれば、公衆衛生の現場における保健師の配置基準は自治体の規模や財政力に左右されやすい。地方自治体の保健師は、市町村保健センターに配属される「地域担当保健師」と、保健所に配置される「広域保健師」に二分される。ある現役の統括保健師は取材に対し、次のように現場の葛藤を漏らす。
「センターの保健師は、虐待リスクを抱える母子宅への家庭訪問や高齢者の見守りなど、膨大な対人ケースワークで手一杯です。一方で保健所の保健師は、感染症のアウトブレイク対応や難病患者の支援計画策定など、制度と法規に縛られた業務に追われます。市民の方が相談窓口を間違えて訪れた際、丁寧にご案内しようにも、建物の物理的距離やシステムの非連携が壁になり、結果として冷たい“たらい回し”に感じさせてしまうケースが後を絶ちません」