カンバスの中で逞しい腕をし、静かに佇む牛乳を注ぐ女のモデルの正体については、長年さまざまな議論が交わされてきました。現在、美術史界で最も有力とされているのが、フェルメール家に長年仕えていた家政婦タネケ・エフェルプール(Tanneke Everpoel)です。
当時の古文書記録によると、タネケはフェルメールの義母マリア・ティンスの家で働いており、家庭内で起きた暴力騒動の際に義母を命がけで守った勇敢な女性として記録されています。彼女の忠誠心と実直さは、フェルメール家において非常に信頼されていました。
絵画に描かれた女性は、決して貴族のような華奢な美しさではなく、労働に耐えうるたくましい肩幅と腕、引き締まった表情を持っています。身内同然の存在であったタネケの誠実な人柄を熟知していたからこそ、フェルメールは彼女の立ち姿に深い敬意と尊厳を込めて筆を執ったと考えられています。