1988年、アナ・ウィンターが米『VOGUE』の編集長に就任したのとまったく同じ日、グレースは同誌のクリエイティブディレクターに着任しました。以来、約30年にわたり2人はファッション界の頂点に君臨し続けました。
映画『ファッションが教えてくれること』で描かれた、冷静沈着なビジネス至上主義のアナと、ロマン主義を貫き誌面の芸術性を守ろうとするグレースの激しい衝突は、世界中の観客を釘付けにしました。この映画の印象から「2人は不仲なのではないか」「衝突の末の退任ではないか」と囁かれましたが、退任の真相はまったく異なります。
2016年の退任劇の引き金となったのは、確執ではなく「クリエイティブの純度を保ちながら、自由に外部とコラボレーションしたい」というグレース自身の強い意志でした。当時の公式発表や関係者の取材によれば、毎号何十ページものファッションストーリーを締め切りに追われて制作する激務から離れ、外部ブランドとの協業や個人的なアートワークに専念するための円満なステップ移行だったのです。
退任時、アナ・ウィンターは公式声明で「グレースなしのVOGUEなど想像できない」と敬意を表明しており、両者は互いの才能を誰よりも認め合う「対極の共犯者」であり続けたと言えます。