読者が朝菊に強く惹きつけられる決定的な理由は、「歴史の不可逆性」と「性格の絶妙な不協和音が生む美学」の融合にあります。
第一に、彼らの結びつきが「互いに他者から孤立していた時期に出会った」という運命的な背景です。当時、国際社会で孤高を誇っていた大英帝国と、長い鎖国を終えて世界に名乗りを上げたばかりの日本。異なる文化と価値観を持ちながらも、二人は利害を超えたある種の敬意で結ばれました。しかし、歴史の荒波はやがて同盟の解消(四カ国条約の締結)という別れをもたらします。この「かつて確かに通じ合っていたが、世界の情勢によって引き裂かれた」という切ない史実の陰影が、ファンの心に忘れがたい余韻を残すのです。
第二に、キャラクター造形における絶妙な対比です。アーサー・カークランドは紅茶を愛し紳士を気取りつつも、元海賊の荒々しさと素直になれないツンデレ気質を抱えています。対する本田菊は、丁寧な敬語と空気を読む慎ましさを備えつつも、腹の底ではしたたかなリアリストの一面を隠し持っています。お互いに腹を割り切れない二人が、少しずつ踏み込み、時にはすれ違いながらも唯一無二の理解者になっていくプロセスは、読者にとって極上の心理サスペンスでありロマンスなのです。
第三に、「人には見えないものが見える」という二人だけの秘密の共有です。アーサーには妖精や魔術の世界が見え、菊には妖怪や八百万の神々が見える。他国のキャラクターたちからは「妄想」や「不気味」と笑われる特性を、この二人だけは否定せず、自然なものとして受け入れ合っています。この「世界中で君だけが私を理解してくれる」という閉鎖的な精神的一体感こそが、ファンを狂熱させる最大のスパイスとなっています。