『くるみ割り人形』の歌詞を丹念に読み解くと、松本隆特有の文学的な情景描写が光ります。壊れやすく繊細な乙女心を硬質な人形に託し、愛の痛みに戸惑う姿を描いた詞は、まさに松本文学の真骨頂です。
そこに寄り添う筒美京平のメロディは、哀愁を帯びたマイナーコードのヴァースから、感情が一気に解き放たれるエモーショナルなサビへと息もつかせぬ展開を見せます。日本人の心の琴線に触れる歌謡曲の哀愁と、洋楽ポップスの洗練されたコード感を完璧に融合させたこの構造こそ、筒美メロディが時代を超えて愛される理由です。
後に石川ひとみは、三木聖子のカバー曲である1981年の『まちぶせ』でミリオンセラーに迫る大ヒットを記録し、NHK紅白歌合戦初出場を果たします。「他者の楽曲に独自の魂を吹き込み、自分の色に染め上げる」という彼女の圧倒的なカバー表現力は、すでにこの『くるみ割り人形』の時点で完璧に開花していたと言えます。