物語の舞台は、徳川幕府の治世が盤石となりつつある封建の時代。凄腕の浪人・牙神獣兵衛は、かつて所属していた山城藩忍びの壊滅という暗い過去を背負いながら、一匹狼として放浪の日々を送っていました。声優を務めた山寺宏一による飄々としながらも芯に底知れぬ凄みを秘めた演技は、獣兵衛の影のある人間性を完璧に体現しています。
ある日、獣兵衛は謎の疫病で全滅した望月村の調査に向かった望月藩のくノ一・陽炎(声:篠原恵美)を、異形の忍者集団「鬼門八人衆」の一人・鉄斎の魔の手から救い出します。しかし、この偶然の介入をきっかけに、獣兵衛は公儀隠密の老忍・濁庵(声:青野武)の策謀に巻き込まれ、猛毒を仕込まれて解毒薬を人質に取られる形で、鬼門八人衆との全面戦争へと引きずり込まれていきます。
鬼門八人衆を率いるのは、かつて獣兵衛の手によって首を刎ねられたはずの宿敵・氷室弦馬(声:郷里大輔)。不死身の肉体を持つ弦馬は、豊臣残党の軍資金となる隠し金鉱を巡り、幕府転覆の巨大な陰謀を巡らせていました。影を自在に操る弦之介、蜂を体内に飼う無死、糸を武器とする紅雀など、人間離れした忍法を使う強敵たちとの死闘は、まさに息をもつかせぬスリルの連続です。
そして物語の感情的な核を担うのが、陽炎の悲劇的な運命です。陽炎は幼少期から毒物を摂取させられ続けたことで「全身が致死性の猛毒」と化しており、肌を重ねた者を確実に死に至らしめる呪われた体を持っていました。誰にも触れられず、誰の体温も知らずに生きてきた彼女は、獣兵衛との逃避行を通じて生まれて初めて一人の女性としての情愛に目覚めます。終盤、弦馬の罠によって致命傷を負った陽炎は、瀕死の獣兵衛に自らの毒を帯びた口づけを与えます。獣兵衛の体内に残っていた濁庵の毒と陽炎の猛毒が打ち消し合う「毒をもって毒を制す」劇的な解毒により、獣兵衛は生還しますが、陽炎はその命を散らすことになります。冷徹な時代劇の枠組みの中に刻まれたこの切なくも美しい結末こそ、本作が単なるアクション映画を超えて語り継がれる最大の要因です。