多くの視聴者が抱いた最大の疑問は、「630万回ものテストをパスした強固な椅子が、なぜ成人男性2人の力だけでいとも簡単に破壊されたのか」という点でした。ネット上では「誇大広告だったのではないか」「粗悪品だったのか」という安易な製品批判も一部で噴出しましたが、工業力学の観点から検証すると、全く異なる真実が見えてきます。
IKEAの品質保証テストにおける「630万回」という数値は、JIS規格や国際標準化機構(ISO)の家具強度基準に基づき、規定のシリンダーを用いて垂直方向から等分に圧力をかけ続ける「静的・定方向疲労試験」をクリアしたことを意味しています。ポエング特有の「カンチレバー(片持ち梁)構造」は、美しいしなりによって体圧を分散し、垂直方向からの過重に対しては極めて高い復元力と強度を発揮します。
ところが、生放送の現場で加わった力は全くの別物でした。春日が座面を斜めに沈み込ませていたところへ、若林が上方から偏ったベクトルで断続的に荷重をかけました。これにより、フレームには本来想定されていない激しい「せん断応力(ズレを生じさせる力)」と「ねじりモーメント」が集中しました。積層合板の繊維方向と直交するねじれが一瞬で許容限界を超えたため、物理的な臨界点に達して破断したのです。
さらに、ここにはテレビ特有の「芸人心理」という心理的バイアスが重なっていました。若林は後にニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン』や自著の中で、当時の心境を述懐しています。「絶対に壊れない」というフリがあったからこそ、「壊そうとしても壊れない驚異的なタフさ」を証明して笑いに昇華させようとする、芸人としての条件反射が働いた結果でした。「絶対に壊れるはずがない」という製品への過信が、皮肉にも安全マージンを力任せに突き破る引き金となってしまったと言えます。