日本を代表する名優・役所広司の出身地としても知られる諫早市。彼がかつて地元市役所の土木課に勤めていたエピソードは有名だが、この地に根づく飾らない人情と粘り強い気質は、そのまま日々の料理の味わいにも通底している。
諫早の定食屋に入ると、卓上に並ぶ小鉢の豊かさに驚かされる。多良岳の清らかな伏流水で育った諫早平野の米、有明海の干潟が育む滋味あふれる貝類や海苔、島原半島から届く瑞々しい根菜。これらが巧みに組み合わされた長崎郷土料理は、派手さこそないものの、舌にじんわりと染み渡る深みがある。
家庭料理の延長線上にある「ぬっぺ汁」や、地魚をすり身にして揚げた出来立ての天ぷら。俳優が国際的な舞台で見せる圧倒的な表現力の原点には、こうした素朴で力強い風土の恵みがあったのではないか。そんな想像を巡らせながら噛み締めるランチは、旅の記憶をひときわ色鮮やかなものにしてくれる。