通常、人間の血圧は体内時計を司る自律神経のリズムに従い、日中の活動期に高く、睡眠中は日中よりも10%から20%低下します。この正常な夜間下降パターンを示す人を「ディッパー(Dipper)」と呼びます。しかし、高血圧を抱える人の多くに、夜間になっても血圧が十分に下がらない「ノン・ディッパー(Non-dipper)」や、逆に夜間に血圧が跳ね上がる「ライザー(Riser)」と呼ばれる異常パターンが隠れています。
夜間高血圧の理由と原因は、単一の要素ではなく複数の生活環境・生理的欠陥が絡み合って生じます。臨床現場で最も警戒されているのが「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。就寝中に気道が塞がると、体内が一時的な酸欠状態(低酸素血症)に陥ります。脳は窒息を防ごうと緊急シグナルを発し、交感神経をフル稼働させて血管を強く収縮させ、心拍数を跳ね上げます。この結果、寝ている最中に血圧が180mmHg近くまで急上昇する事態が繰り返されるのです。
これに加えて見逃せないのが、早朝高血圧モーニングサージの真相です。起床前後の数時間に血圧が急激に跳ね上がる現象を「モーニングサージ」と呼びます。目覚めとともに副交感神経から交感神経へスイッチが切り替わる際、夜間の脱水で粘度の上がった血液、前日の塩分過多による体液量の貯留、さらには冷え切った寝室の室温刺激が合体し、血管壁に凄まじい圧力が加わります。脳出血や心筋梗塞が午前6時から午前10時の時間帯に突出して多いのは、まさにこの急激なサージが原因です。
「2026年最新夜間血圧管理ガイドライン」においても、診察室での測定値以上に「夜間血圧(平均120/80mmHg未満)」および「早朝家庭血圧(135/85mmHg未満)」の厳格なコントロールが強く義務付けられるようになりました。夜間に血圧が高い状態を放置することは、血管事故の導火線に火がついたまま眠りにつくことと同義なのです。