劇中では、物語序盤に登場する「ナゴの守」と、後半の頂上決戦で変貌する「乙事主(おっことぬし)」という、二体の巨大な猪神がタタリ神化します。両者は同じ種族の長でありながら、狂気へ至る心理的道筋や絶望の質には明確な差異が存在します。
乙事主がタタリ神化した経緯は、極めて悲劇的です。500歳という長寿を誇り、鎮西(九州)から同族を引き連れてやってきた誇り高い長老でしたが、地雷火と石火矢による罠によって一族の軍勢は壊滅。自らも重傷を負い、視力を失うなか、死んだ猪の皮を被ったジコ坊配下の唐傘連やジバシリたちを「蘇った我が一族」と誤認してしまいます。
騙されていることに気づいたときの激しい自責と恥辱、そして神としてのプライドの完全な崩壊。シシ神にすがりつこうとする狂おしい執念が、彼自身の血を沸騰させ、体を黒い触手で覆い尽くしていきました。ナゴの守と乙事主の違いとは、肉体の激痛に耐えかねて孤独に狂った「被害者」の側面が強いナゴの守に対し、乙事主は背負うものが大きすぎたリーダーが絶望の果てに自壊した姿であり、神の尊厳が完全に泥に塗れるプロセスの生々しい提示でした。