音響現場で日常的に飛び交うファンタム電源(Phantom Power)という名称は、直訳すると「幽霊(亡霊)の電源」を意味します。別系統のACアダプターやバッテリーを用意することなく、音声信号を送るためのマイクケーブルそのものを伝って目に見えない形で電力が送り届けられる様子から、1960年代のドイツ放送局や独ノイマン(Neumann)社を中心にそう呼ばれ始めた歴史的背景があります。
標準規格として広く定着している電圧は「+48V(ボルト)直流電流」です。スタジオ規格(IEC 61938)では12Vや24Vも定義されていますが、業務用・民生用を問わず現在の標準機材はほぼすべて+48Vで統一されています。
では、なぜスタジオ品質の録音に欠かせないコンデンサーマイクには、この電源供給が不可欠なのでしょうか。その理由はマイクカプセルの物理構造にあります。
コンデンサーマイクは、数ミクロンという極薄の振動板(ダイヤフラム)と固定極の間に電圧をかけ、一種の蓄電器(コンデンサー)を形成して音を捉えます。空気の振動でダイヤフラムが揺れると、極板間の距離が変化して静電容量が変わり、極めて微小な電気信号が生まれます。この仕組みを成立させるための「バイアス電圧」の供給、そして拾い上げた極微信号をオーディオインターフェースへ劣化なく送り出すための「内部ヘッドアンプ(インピーダンス変換回路)」を動作させる電力として、48Vの直流が必要不可欠となるわけです。