映画『17歳のカルテ』は、作家スザンナ・ケイセンが1993年に発表した自伝的回顧録『Girl, Interrupted』(旧邦題:『思春期病棟の少女たち』)を原作としています。しかし、映画版のドラマチックな展開と、原作に記された実際の記録との間には、取材によって確認される明確な相違点が存在します。
実際のスザンナは1967年4月、18歳のときにアスピリンを大量服用した直後、診察にあたった精神科医からわずか25分程度の問診を受けただけでマサチューセッツ州の名門精神科病院マクリーン病院(映画内のクレイモア)へ入院させられました。入院期間は映画のような短期間ではなく、実生活では約18ヶ月(1年半)に及びました。
劇中で下される「境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)」という診断名について、原作者ケイセンは後のインタビューや手記の中で極めて懐疑的な見解を示しています。1960年代後半のアメリカ社会において、この診断枠組みは「良妻賢母のレールから外れた反抗的な若い女性」や「既存の規範に従わない感情表現をする者」を社会から隔離し、都合よくラベル貼りするための便利な口実として機能していた側面が否定できません。
ケイセン自身、自著の中で「正気と狂気の間に引かれた境界線は、社会が便宜上引いた極めて脆い線に過ぎない」と指摘しています。映画版がスザンナとリサの対立を軸にしたエンターテインメント性を高めたことに対し、原作は当時の精神医療システムそのものが孕んでいた独善性や、時代が生み出した女性差別の構造を鋭く告発するドキュメンタリー的側面を強く宿していました。