外見上の違いは「黒の濃さ」だけにとどまりません。洋服の構造や仕立てのディテールにも、明確な設計思想の差が刻まれています。プロでなくとも判別できる主な着眼点は以下の3点です。
第1に、礼服の生地とシルエットの特徴です。ビジネススーツは時代のトレンドを反映し、細身のウエストシェイプや短めの着丈、スタイリッシュな肩回りが主流です。一方、礼服は「10年単位で長く着用する」ことを前提に設計されています。年齢を重ねて体型が変化しても無理なく着こなせるよう、胸元や胴回りに適度なゆとりを持たせたクラシックなボックスシルエットが基本です。
第2に、背面の「ベント(スリット)」の有無です。ビジネススーツには動きやすさを確保するために「センターベント」や「サイドベンツ」が入っています。しかし、正式な弔事用ジャケットは「ノーベント(切れ込みなし)」が原則です。スリットが開いて腰回りが露出することを「威厳を欠く」「破れに通じる」として忌み嫌う伝統的なマナーに基づいています。
第3に、スラックスの裾口の処理です。ビジネススーツでは裾を折り返した「ダブル仕上げ」を選ぶ人もいますが、弔事・慶事を問わずフォーマルウェアの裾は「シングル仕上げ(折り返しなし)」が鉄則です。ダブル仕上げは「重なる」を意味し、弔事では「不幸が重なる」ことを連想させるため、厳禁とされています。