あくびをした瞬間に涙が押し出される直接的な主因は、感情の昂ぶりではなく「純粋な力学的圧力」にあります。これを理解するためには、目の周りにある涙の産生・排泄システムを知る必要があります。
私たちの涙は、上まぶたの外側上方にある「主涙腺(しゅるいせん)」で絶えず作られ、まばたきによって目の表面を潤した後、目頭にある小さな穴(涙点)から「涙嚢(るいのう)」という小さな袋に吸い上げられ、最終的に「鼻涙管(びるいかん)」を通って鼻の奥へと排出されています。通常時、健康な成人の目の表面には常に約7マイクロリットル(μL)の涙液が存在し、毎分約1.0〜1.2μLのペースで静かに産生・排出を繰り返しています。
ところが、あくびをする際には顎を大きく下に開き、同時に顔全体の筋肉が強く引き絞られます。この時、目の周りをドーナツ状に取り囲んでいる「眼輪筋(がんりんきん)」が強烈に収縮します。この筋収縮が、涙腺そのものをギューッと絞り込むと同時に、目頭に溜まっていた涙嚢を強く圧迫します。
さらに、あくびの息を吐き出す動作や鼻腔内圧の上昇によって、本来の排水路である鼻涙管の出口が一時的に狭窄・閉塞します。その結果、行き場を失った涙嚢内の涙が涙点から目の表面へと逆流し、さらに絞り出された新鮮な涙腺分泌液と合流することで、まぶたの許容量(約30μL)を一瞬で突破して頬へと溢れ出すのです。
「あくびをすると同時に鼻水が出る理由」もここにあります。あくびの圧迫が解けた直後、押し流された過剰な涙が一気に鼻涙管を通って鼻腔内へとなだれ込みます。鼻の粘膜を涙が刺激し、元々の鼻汁と混ざり合うことで、あくびの直後に鼻をかみたくなる現象が発生するわけです。