身体のケアと並び、益軒が同等以上に重きを置いたのが養生訓における心の養生です。彼は「心は身体の君主(統率者)であり、心が乱れればどんなに良い食事を摂っても病に侵される」と断言しました。
仏教や儒教、中医学で言われる「七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)」の過剰な起伏を鎮めるため、益軒は特に「怒り」と「欲」のコントロールを徹底するよう説きました。怒りは肝(肝臓・自律神経系)を傷つけ、思い煩いは脾(消化器系)を損なうという観察は、現代の心身医学におけるストレスと内臓機能低下の関係そのものです。
益軒が提示した心の処方箋は、次の3つの視点に集約されます。
- 気を穏やかに保つ(平気):不測の事態が起きてもカッとならず、深呼吸して心を平らかに保つ。
- 欲望に際限を設ける(寡欲):物欲、名誉欲、飲食欲にとらわれすぎず、足るを知る。
- 日々の生活に小さな喜びを見出す(楽志):四季の移ろいや人との和やかな会話に感謝し、機嫌よく過ごす。
デジタル情報が絶え間なく押し寄せ、他者との比較で精神的摩耗を起こしやすい今こそ、感情の波を鎮める益軒の心理学的アプローチが強固なメンタルバリアとなります。