名声の一方で、佐藤可士和のデザイン評判には時として厳しい議論が巻き起こることも事実です。その象徴的な事例としてネット上で今なお語り継がれているのが、2013年に導入された「セブンカフェ」のコーヒーマシン騒動です。
英語表記の「R(レギュラー)」「L(ラージ)」と洗練されたピクトグラムで構成された極限までミニマルな操作パネルに対し、導入直後のコンビニ現場では客や高齢者が押し間違えるトラブルが頻発。店舗スタッフが「赤ボタン=ホット」「青ボタン=アイス」「R=普通」「L=大きい」といった手作りのテプラやPOPを大量に貼り付ける事態となり、SNSや掲示板で「デザインの敗北」「現場を無視したアート思考」と大きな批判を浴びました。
しかし、この事象を一過性の失敗と断じるのは早計です。コンビニの店頭という、老若男女数千万人が秒単位で利用する過酷なUI/UX環境において、「整理された美しい記号」と「直感的なアフォーダンス(操作誘導)」のギャップが露呈したこの事例は、日本のデザイン業界全体にとって貴重なケーススタディとなりました。その後、ボタンのサイズや色分け、日本語表記の併記などUIのアップデートが重ねられ、結果としてセブンカフェは累計数百億杯を売り上げる空前のモンスター商品へと成長しています。
ネット上の「使いにくい」という批判の裏には、記号性を徹底的に研ぎ澄ませる佐藤氏のアプローチと、多様すぎる大衆利用の現場との摩擦がありました。しかし、彼が目指すのは常に「10年後、20年後も陳腐化しない強固な構造」であり、その本質的な整理力こそが長期的なメガヒットを生み出し続けている理由です。