本作が他の卒業ソングと決定的に異なるのは、斉藤由貴『卒業』歌詞の意味が持つ「冷めたリアリズム」と「純情の相克」にあります。松本隆が紡ぎ出した冒頭のフレーズは、今や日本歌謡史に残る名文句として知られています。
「制服の胸のボタンを 下級生たちにねだられ 頭かきながら逃げる あなたの姿が好きだった」
少女漫画的な憧憬を描きながらも、主人公の少女は意中の彼に駆け寄ってボタンをねだるわけではありません。群がる下級生たちと困惑する彼を、校庭の片隅から「客観的かつ静謐に見つめる傍観者」にとどまっています。この絶妙な距離感こそが、思春期特有の自意識とプライドをリアルに浮き彫りにしています。
また、サビで繰り返される「ああ 卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう」というフレーズには、集団心理に同調できない少女の孤立感と、形骸化した儀式へのシニカルな視線が宿っています。筒美京平は、この複雑な心理描写に対し、メジャーコードとマイナーコードが交錯する哀愁漂う旋律を配置しました。感情を過度に爆発させず、淡々と語りかけるようなメロディラインを設計したことで、斉藤由貴の繊細な声質が持つ叙情性が最大限に引き出されたのです。