本作の緊迫感を極限まで高めているのが、絶対悪として君臨する明石藩主・松平斉韶と、彼を討つべく立ち上がった御目付役・島田新左衛門の凄絶な対比だ。暴君・斉韶を演じた稲垣吾郎の怪演は、公開当時から映画界に大きな衝撃を与えた。
無邪気な笑みを浮かべながら女子供を惨殺し、他者の命を虫けらのように踏みにじるその姿は、感情の通わない冷徹なサイコパスそのもの。悪びれる素振りすら見せない不気味な透明感は、観客に本能的な嫌悪と恐怖を植え付け、物語の推進力を極限まで加速させた。
これを受け止める役所広司の重厚な存在感も見事というほかない。泰平の世で武士の存在意義を見失いかけていた老練な侍が、「大義のための狂気」を受け入れ、命を燃え尽くす覚悟を決めた瞬間の眼光。静の役所広司と動の稲垣吾郎、両者の火花散る芝居の応酬が、劇中の空気を張り詰めさせている。