蒼崎橙子を語る上で避けて通れないのが、妹である「第五魔法」の継承者・蒼崎青子との凄惨な関係性です。二人の確執は、単なる姉妹喧嘩の域を遥かに超越した「存在証明を賭けた生存競争」でした。
幼少期、祖父である先代当主は、魔術の才能に恵まれ努力家であった姉の橙子を「正統な後継者」として厳しく育て上げました。橙子自身もその期待に応え、過酷な鍛錬に身を捧げて自らの未来を蒼崎に捧げる覚悟を固めていたのです。しかし高校生になったある日、祖父は突如として「後継者を妹の青子に変更する」という理不尽極まりない決定を下しました。
魔術回路すらまともに持たず、普通の中学生として気ままに生きていた青子にすべてを奪われた橙子の絶望と怒りは計り知れません。彼女は蒼崎の家を飛び出し、時計塔で圧倒的な実績を叩き出して三咲市へ侵攻。『魔法使いの夜』で描かれた青子との死闘は、自らの存在理由を否定された橙子の魂の叫びでもありました。
そして、彼女の前で口にすることが最大の禁忌とされているワードが「傷んだ赤色(ダーティ・レッド)」です。かつて時計塔で彼女に与えられた色の称号ですが、彼女はこの呼称を激しく嫌悪しています。その理由は、自らが憧れ、手に入れられなかった「妹の燃えるような赤髪」への拭い去れないコンプレックスと、自らを軽んじた時計塔への怨嗟が凝縮されているためです。この名を呼んだ者は、たとえ魔術協会の高官であっても即座に惨殺される運命を辿ります。