映画『もののけ姫』の主題歌を初めて聴いた人の多くは、「美しいソプラノ歌手の女性が歌っている」あるいは「変声期前の少年合唱団のトップソリストではないか」と直感します。しかし、歌っているのは正真正銘の成人男性です。宮崎県西都市出身の声楽家、米良美一さんがその人です。
米良さんの声種は「カウンターテナー(Countertenor)」と呼ばれます。これは成人男性が高度に発達させた裏声(ファルセット)を駆使し、女声のアルトやメゾソプラノに相当する音域を美しく響かせる高度な歌唱技術です。1971年5月21日生まれの米良さんは、映画公開当時の1997年には20代半ばの若き精鋭として頭角を現したばかりでした。2026年現在の年齢は54歳を迎えていますが、その卓越した発声技巧と情感豊かな表現力は、日本のクラシック界およびポピュラー音楽史において唯一無二の金字塔として評価されています。
当時の日本において「カウンターテナー」という音楽用語は、一般層にはほとんど認知されていませんでした。『もののけ姫』の社会現象的ヒットとともに、米良美一という類まれな才能を通じてこの声種が日本中に知れ渡ることになった歴史的な背景が存在します。