楽曲の中盤および随所に登場する「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」というリリックの出自は、2002年2月21日にリリースされたモーニング娘。の14枚目シングル『そうだ!We're ALIVE』です。当時、TBS系『ASAYAN』のエンディングテーマやソルトレイクシティ五輪の応援ソング的文脈で列島を包み込んだ、つんく♂屈指のエネルギッシュなファンク歌謡でした。
米津玄師がこのフレーズを『KICK BACK』へ取り入れた理由は、単なるノスタルジーや思いつきのパロディではありません。当時のインタビューやラジオ番組で本人が明かしたところによると、映画や漫画の劇伴・主題歌を手掛ける際、彼は作品の主人公の魂に深くダイブして楽曲を構築します。『チェンソーマン』の主人公・デンジは、極貧の底から「普通の暮らしがしたい」「ジャムを塗ったトーストが食べたい」という本能的かつ切実な欲望を抱えて生きる青年です。
1991年生まれの米津玄師は、2002年当時は10歳前後の小学生でした。多感な少年期にテレビから浴びるように流れていた「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」という言葉は、彼の無意識下に「前向きで無防備な生のエネルギー」の象徴として刻み込まれていました。過酷な現実の中でどれだけ泥水をすすっても、愚直に明日を夢見て生き抜こうとするデンジの剥き出しのバイタリティを描く過程で、脳内に突如としてこのフレーズが自然発生的にリフレインしたと語られています。シニカルな絶望と愚直な希望が同居するデンジの心情に、これ以上なく美しく合致した瞬間でした。