東京都葛飾区柴又が今、世代や国境を越えて熱烈な注目を集めている最大の背景には、デジタル化と均質化が進む現代において「失われつつある手触りのある下町体験」を求める人々の本能的な回帰があります。東京都観光公式サイト「go Tokyo」などの動向調査でも示されている通り、京成金町線「柴又駅」は羽田空港から約1時間20分、成田空港から約1時間30分、新宿駅からも日暮里・京成高砂経由で約60分と、首都圏内外からの日帰りアクセスに極めて適した距離感にあります。
かつては映画『男はつらいよ』シリーズをリアルタイムで観ていた中高年層が観光客の主力を占めていましたが、文化庁が2018年に都内初の「重要文化的景観」に選定して以降、保存と活用のバランスが精緻に設計されてきました。現地商店街の店主は取材に対し、「週末になると昭和レトロな街並みを背景にフィルムカメラやスマートフォンで撮影を楽しむ10代・20代の若者や、寺社建築に感嘆する欧米からの旅行者が店頭を埋め尽くす光景が日常になった」と語っています。
ネット上で囁かれる「寅さんブームの終焉とともに衰退するのではないか」という懸念は、現場の実情とは大きく乖離しています。映画の世界観という強固な物語性を土台にしつつ、江戸期から続く寺社信仰、大正から昭和初期の近代建築、そして手焼きせんべいや草だんごの香ばしい匂いが漂う五感刺激型の観光地として、独自のポジションを確立しているのが柴又の現在地です。