近年の生態調査では、ヒグマ(Ursus arctos)が人を恐れなくなる「プレデター化(捕食者化)」のプロセスが科学的に解明されつつある。環境省が主導する最新のモニタリング調査によると、堅果類(ドングリやミズナラ)の不作や生息密度の飽和に伴い、若齢個体や栄養失調の個体が人里周辺の残飯や農作物に依存するケースが急増している。農地のデントコーンや放置された果樹の味を覚えたクマは、人間を「危険な存在」ではなく「高カロリーな食料をもたらす無力な隣人」として再定義してしまう。
突発的な遭遇による「排除行動」と、獲物として狙いを定める「捕食行動」には決定的な差異がある。威嚇目的であれば、短時間の突進(ブラフチャージ)や一撃の打撃を加えた後に立ち去ることが多い。これに対し、捕食対象とみなされた場合、ヒグマは足音を消して背後から忍び寄り、対象が倒れても攻撃を止めず、遺体を安全な茂みへと引きずり込んで埋める「土盛り」の行動を見せる。この不可逆的な学習サイクルを断ち切る初期対応の遅れこそが、惨劇の引き金となっている。