この謎に決定的な科学の光を当てたのが、ハーバード大学の経済学者センディル・ムッライナタンらの研究チームだ。彼らが提唱した概念が行動経済学に革命をもたらした。人は何かが決定的に不足すると、その対象に意識を過剰に奪われ、他の事柄を処理する頭の余白を失ってしまう。これこそが認知帯域幅(スケアシティ・エフェクトと呼ばれる現象の本質だ。
実験では、突発的な高額出費の懸念を植え付けられた低所得層の被験者が、論理的思考テストで著しく低いスコアを記録した。その知能の低下幅は、一晩徹夜した状態やIQで言えば約13ポイントの低下に匹敵する。金銭的な切迫感そのものが、知性を一時的に奪い去る。頭が悪いから困窮するのではない。困窮しているからこそ、脳の処理能力が強制的にハイジャックされているのだ。