真央人気が社会現象となるにつれ、メディアの視線は家族のプライベートへと容赦なく向けられた。敏治氏の過去の経歴や私生活がセンセーショナルに書き立てられた際も、本人が公式に反論の場を設けることは一切なかった。沈黙を貫くことこそが、娘の競技生活への悪影響を最小限に抑える唯一の防壁だと信じていたからだ。
カメラの前に立つ母と、姿を消し続ける父。その対比は時に根拠のない憶測を呼んだが、家族内部の結束は外野の雑音とは無縁だった。父親が自らのプライドよりも娘のキャリアを最優先にしたからこそ、彼女は雑音に惑わされることなく、バンクーバー五輪の銀メダルをはじめとする数々の伝説を氷上に刻むことができた。