AEDの運用体制を見直す上で、日本の教育界および救急救命の歴史における最大の転換点となった出来事がある。2011年9月、埼玉県さいたま市の小学校で起きた悲劇的な事故だ。
小学6年生の桐田明日香さん(当時11歳)が、駅伝大会の練習中に突然倒れて意識を失った。現場には教職員が複数駆けつけたものの、「意識があるように見えた」「けいれんや死戦期呼吸(心停止直後に見られるあえぐような呼吸)を息をしていると誤認した」ことによって、職員室にあったAEDは一度も現場に運ばれることがなかった。救急隊が到着した時にはすでに心肺停止状態であり、明日香さんは翌日、息を引き取った。
「AEDが現場にあれば、娘は助かったのではないか」という遺族の切痛な手記と執念の検証作業は、教育委員会を動かした。事故の反省と調査報告をもとに作成されたのが、現在全国の学校で事故対応マニュアルとして採用されている「ASUKAモデル」である。
ASUKAモデルが現場に叩き込んだ原則は極めてシンプルかつ徹底している。
- 迷ったらAEDを持ってくる:倒れた人がいたら、必要か不要かを議論する前にまずAEDを現場へ走って届ける。
- 呼吸の判断がつかなければ即座にパッドを貼る:普段通りの規則正しい呼吸をしていない場合はすべて心停止とみなして胸骨圧迫を開始し、AEDの指示に従う。
- 機器が自動判断する:電気ショックが必要かどうかは機械が心電図を解析して判断するため、人間が誤って作動させる心配はない。
この教訓は学校現場にとどまらず、市民一人ひとりが直面するあらゆる救命シーンにおける基本動作の土台となっている。