「時間よ止まれ」を語る上で欠かせないのが、資生堂1978年春のキャンペーンCMソングとしてのタイアップ劇です。当時の日本の化粧品業界における春のキャンペーンは、各社が巨額の広告費を投入して激突する年間最大の主戦場でした。キャンペーンモデルには堀川まゆみが抜擢され、南国のビーチを舞台にした洗練された映像が企画されました。
当時の化粧品CMソングといえば、清純派アイドルや甘美な歌謡曲ポップスを起用するのが鉄則でした。しかし、資生堂のクリエイティブチームが求めたのは「媚びない、自立した芯のある女性像」です。そこで浮上したのが、キャロル解散後にソロアーティストとして独自の道を猛進していた矢沢永吉でした。公式記録や関係者の証言によると、当時CBS・ソニーの担当ディレクターやマネージャー陣からの積極的な売り込みと、資生堂側の「既存の枠組みを打ち破りたい」という挑戦意欲が合致し、極めて異例の起用が決定しました。
矢沢自身、当時のインタビューや自著で「メジャーなフィールドで勝負してこそ本物だ」という野心を語っています。アンダーグラウンドやサブカルチャーに安住することを良しとせず、テレビCMという巨大メディアの真ん中に自ら躍り出る決断を下しました。その結果、CMオンエアと同時に問い合わせが殺到し、日本中のお茶の間に「E.YAZAWA」の圧倒的な存在感と洗練されたメロディが浸透していきました。