英国旗として世界中で愛される「ユニオンジャック(Union Flag)」は、実在する3つの守護聖人の旗を合成してデザインされています。
白地に赤十字のイングランド旗(聖ジョージ旗)、青地に白斜め十字のスコットランド旗(聖アンドリュー旗)が1606年に重ね合わされ、さらに1801年のアイルランド統合時に白地に赤斜め十字のアイルランド旗(聖パトリック旗)が加わりました。よく観察すると斜め赤十字の位置が非対称になっていますが、これは先行して統合されていたスコットランドへの配慮として、白十字の幅を優先した精緻な配慮によるものです。なお、ウェールズの意匠が含まれていないのは、旗が成立した時点でウェールズがイングランドの一部として法的に組み込まれていたためです。
この国旗の右肩に乗る「聖パトリック旗」の地域こそが、現代でも火種を残す北アイルランド紛争(The Troubles)の舞台です。1960年代後半から1998年の「ベルファスト合意(聖金曜日合意)」に至るまで、連合王国残留を望むプロテスタント系住民(ユニオニスト)と、アイルランド統一を掲げるカトリック系住民(ナショナリスト)が衝突し、3,500人以上の命が奪われました。
2026年現在の北アイルランドは武力衝突こそ収束したものの、ブレグジットに伴う「英本土との間の通関手続き(ウィンザー・フレームワーク)」を巡り、政治的緊張が続いています。グレートブリテン島から北アイルランドへ荷物を送る際に検疫や関税手続きが生じる事態に対し、「同じ国の中に境界線を引かれた」と感じる現地ユニオニストの反発は根深く、国の一体性を保つ難しさを露呈しています。